近年の脱炭素化の流れは、地球規模の喫緊の課題として、私たちの社会に大きな変革を迫っています。しかし、その旗印の下に進められる巨額のGX(グリーントランスフォーメーション)投資に対し、国民の間には静かな、しかし確実に増幅している不満の声が渦巻いているのではないでしょうか。

その不満の根源の一つは、その効果への疑問です。政府は年間5兆円という巨額の予算をGX関連事業に投じると喧伝しますが、具体的な成果は果たして目に見えているでしょうか。質疑でも指摘されたように、地球全体のCO2排出量は依然として増加の一途を辿っており、「焼け石に水」という表現が決して誇張ではない現状を示唆しています。私たちの生活に直接的な負担として押し寄せる再生可能エネルギー賦課金は、来月の検針分からさらに値上がりし、年間3兆円もの国民の血税に近い資金が、その実効性の不透明な政策に吸い込まれていくのです。
その矛盾は、国際的な潮流との乖離において一層鮮明になります。アメリカでは、トランプ政権の政策転換以降、ESG投資への資金流入は明らかに鈍化しています。合理的な判断を下す投資家たちは、政策の追い風がなくなった分野からの撤退を始めています。さらに、アメリカの共和党の一部議員からは、金融機関同士が連携し、石油燃料業界への投資を制限する動きが独占禁止法に抵触する可能性すら指摘されています。エネルギー価格の高騰がインフレを招き、経済活動に悪影響を与えている現状を踏まえれば、この指摘は決して的外れではありません。ドイツでは、電気代が3倍に高騰したことが製造業の疲弊を招き、政権交代の一因となった事実も、エネルギー政策の失敗がもたらす深刻な影響を物語っています。
そして、最も注目すべきは、これまでGX投資を主導してきたはずのエネルギー業界の動きです。アメリカの巨大資産運用会社ブラックロックをはじめ、ゴールドマンサックス、ウェルズファーゴといった名だたる金融機関が、気候変動対策を目的とした国際的な投資・銀行グループから相次いで脱退しているのです。その理由は、「2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロ目標達成に向けた取り組みが順調に進んでおり、グループに所属しなくても目標達成が可能である」という、一見もっともらしいものですが、その背景には、政策の不確実性や投資効率の低下といった、より現実的な判断が働いているのではないでしょうか。日本の金融機関もこの流れに追随し、メガバンクを含む多くの機関が同様のグループから脱退しています。
にもかかわらず、日本政府は依然としてGX路線を突き進む構えを崩していません。国民生活を直撃する電気代の高騰、効果が見えない巨額の税金投入、そして国際的な潮流とのずれ。これらの矛盾に対する国民の不満は、日々の生活の中で確実に蓄積されています。政府は「2050年カーボンニュートラル」という大目標を掲げる一方で、目の前の国民の悲鳴に耳を塞いでいると言わざるを得ません。
今こそ、政府は立ち止まり、その政策の妥当性を改めて検証すべき時です。アメリカの政策転換、エネルギー業界の撤退という明確なシグナルを無視し、国民の声に耳を傾けることなく突き進む姿勢は、国民の信頼を大きく損なうだけでなく、日本の経済競争力をも蝕む危険性を孕んでいます。本当に国民のため、そして地球の未来のためになる政策とは何か。政府には、既得権益や過去の決定に固執することなく、柔軟な政策転換と国民への真摯な説明責任が求められているのではないでしょうか。
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