ガンプラの需要拡大、転売の増長、海外投資家の株主割合に関する分析レポート

ガンプラ

1. エグゼクティブサマリー

本レポートでは、近年著しい拡大を見せるガンプラ需要、特に海外市場における需要の伸びに焦点を当てる。国内出荷数の減少と海外輸出数の増加が同時期に見られる傾向は、国内市場における品薄感を生み出し、転売の増長を招いている可能性が高い。ガンプラの転売は、市場価格の高騰や正規購入の困難さを引き起こし、消費者に影響を与えている。転売市場は競争が激しく、価格競争や情報戦といった側面も見られる。バンダイナムコホールディングスの株主構成においては、海外投資家が一定の割合を占めており、同社のグローバル戦略に影響を与えている可能性がある。これらの要素が複雑に絡み合い、現在のガンプラ市場の動態を形成している状況について、詳細な分析を行う。

2. はじめに

1980年の発売以来、ガンプラは単なるプラモデルとしてだけでなく、日本を代表するポップカルチャーの一つとして、国内外で幅広い世代に支持されてきた。近年、このガンプラの市場において、需要の急増、販売地域の変化、そしてそれに伴う転売行為の活発化といった現象が顕著に見られる。本レポートでは、これらの現象の背景にある要因を分析し、需要拡大、輸出入の動向、転売の現状とその原因、転売市場における競争、そしてバンダイナムコホールディングスの株主構成といった多角的な視点から、現在のガンプラ市場の状況を包括的に把握することを目的とする。

3. ガンプラ需要の急増

3.1 近年の需要拡大

近年、ガンプラの需要は著しく拡大している。この背景には、新型コロナウイルス感染症の流行による巣ごもり需要の高まりに加え、海外市場における人気の上昇が大きく影響している。特に、Netflixなどの配信サービスを通じて日本のアニメが容易に視聴できるようになったことや、ガンダム情報の公式ポータルサイト「ガンダムインフォ」が多言語に対応し、無料でアニメを配信していることが、海外でのファン層拡大に貢献している。また、バンダイスピリッツが主催するガンプラの工作・塗装の世界大会「GUNPLA BUILDERS WORLD CUP(GBWC)」のようなファン同士が楽しめるイベントも、グローバルな人気を支えている。

2020年3月期から2024年3月期にかけて、ガンダムシリーズ全体の売上高は187%の成長を遂げ、この成長にガンプラが大きく貢献していることは明らかである。2023年度の国内玩具市場全体も過去最高を記録しており、その中でもプラモデル、特にガンプラが市場を牽引する重要な役割を果たしている。2020年にはガンプラの累計出荷数が7億個を突破しており, その人気と需要の大きさを物語っている。さらに、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」や劇場版「機動戦士ガンダム SEED FREEDOM」といった新たなシリーズの展開も、新規ファンの獲得に繋がり、需要を押し上げている。

3.2 需要の地理的分布

ガンプラ需要の拡大は、特定の地域に偏っているわけではない。近年では、売上高の約50%が海外市場からのものであることが複数の情報源から示されている。特にアジア地域、北米、ヨーロッパなどが重要な市場となっている。2014年度のデータでは、総出荷数の約3割が海外向けであり、その中でも韓国への出荷量が多かったことが報告されている。2016年には、輸出額が約98億円に達し、国内出荷額の半分以上を占めていた。2012年頃には、韓国、香港、台湾が主要な輸出先であったが、その後、中国、アメリカ、タイなども存在感を増し、輸出先が多様化している。このように、ガンプラの需要は国内市場に留まらず、グローバルに拡大しており、その地理的な広がりが生産体制や流通戦略に大きな影響を与えている。

4. 輸出と国内出荷の動向

4.1 海外輸出の動向

過去10年以上にわたり、ガンプラの海外輸出は増加傾向にある。この成長は、ガンダムフランチャイズの世界的な人気と、バンダイナムコによる海外市場開拓の戦略的な取り組みによって牽引されている。2014年度には、出荷数の約3割にあたる330万個が海外へ輸出され、2016年には輸出額が98億円に達した。2020年の時点では、海外売上高比率が約5割にまで上昇しており, 海外市場がガンプラビジネスにおいて極めて重要な存在となっていることがわかる。特にアジア地域は依然として大きな市場であり, 北米やヨーロッパへの展開も強化されている。この持続的な輸出の伸びは、バンダイナムコがグローバルな需要に応えることを戦略の重点に置いていることを示唆している。

4.2 国内出荷の動向

国内出荷数については、輸出数の増加と比較すると複雑な様相を呈している。全体的な生産数と販売数は増加しているものの、輸出の伸びに比例して国内出荷数が増加しているとは限らない可能性がある。1989年には国内出荷額がピークを迎えたが, その後、テレビゲームの台頭などにより減少した時期もあった。近年では、巣ごもり需要などにより再び出荷数を伸ばしているものの, 海外需要への対応が優先されている可能性も考えられる。2006年には年間出荷数が722万個であったのに対し、2016年には1440万個、2020年には約3100万個へと増加している。2021年には約4100万個が出荷されたと推定されている。しかし、これらの数字は国内向けと海外向けを合算したものであり、輸出比率の上昇を考慮すると、国内市場への供給量が相対的に減少している可能性は否定できない。

国内出荷数 (百万個)
20067.22
201614.4
202031
2021約 41.00

4.3 輸出と国内の動向比較

上記の情報から、ガンプラの輸出は顕著な増加傾向にあり、海外市場が重要な成長エンジンとなっていることがわかる。一方で、国内出荷数も全体としては増加しているものの、輸出の伸びほどではない可能性があり、結果として国内市場における製品の入手難易度が高まっていると考えられる。特に人気のある限定版や新製品においては、この傾向が顕著に現れている可能性があり、これが後述する転売の増長に繋がる要因の一つとなっていると考えられる。海外需要の優先と国内供給の相対的な制約が、国内消費者にとってガンプラを入手しにくい状況を生み出している可能性が高い。

5. ガンプラ転売の現状

5.1 転売の蔓延

現在、ガンプラの転売は広範な問題となっている。ニュース記事やSNSでの議論、フリマサイトにおける高額な取引などが、この現状を示している。特定の限定版ガンプラは、定価の数倍もの価格で取引されることも珍しくない。セブン&アイ限定のガンプラが発売当日に品薄となり、フリマサイトで高額転売される事例は、転売が一般化している状況を象徴している。この状況は、単に一部の熱狂的なファンが入手困難になるだけでなく、より多くの消費者が正規の価格で商品を購入する機会を奪っている。

5.2 消費者への影響

ガンプラの転売は、消費者に様々な悪影響を及ぼしている。最も大きな影響は、価格の高騰により、定価での購入が困難になることである。特に、人気の高いモデルや限定品は、発売と同時に転売ヤーによって買い占められ、フリマサイトやオークションサイトで高額で出品されるため、一般のファンは正規の価格で入手することが難しくなっている。このような状況は、ガンプラ製作やコレクションを純粋に楽しみたいファンにとって大きな不満や悲しみを引き起こしており、新規ファンがガンプラの世界に入りづらくなるという問題も生じさせている。

6. ガンプラ転売増長の要因

6.1 需要と供給の不均衡

ガンプラ転売が活発化している根本的な原因の一つは、需要と供給の不均衡である。世界的なガンダム人気を背景に需要が非常に高い一方で、生産数には限りがあり、特に限定版や人気モデルは供給が追いつかない状況が常態化している。海外輸出の増加も、国内市場への供給量を相対的に減少させる要因となり、この需給ギャップをさらに拡大させていると考えられる。この状況下では、少量の供給に対して多くの需要が存在するため、転売ヤーが利益を得やすい環境が生まれる。

6.2 バンダイナムコの生産体制と戦略

バンダイナムコは、需要の拡大に対応するため、生産能力の強化に積極的に取り組んでいる。静岡県にあるバンダイホビーセンターの新工場建設や生産ラインの増強などが行われている。しかし、世界的な需要の伸びは非常に速く、生産体制の強化が完全に追いついていない現状がある。また、海外市場を重視する戦略も、国内市場への供給量を調整する要因となっている可能性がある。生産能力の向上とグローバル戦略のバランスが、国内の需給状況に影響を与え、転売を助長する一因となっていると考えられる。

6.3 販売方法と入手経路の限定性

ガンプラの販売方法や入手経路の限定性も、転売を増長させる要因となっている。特に、オンライン販売や抽選販売といった方式は、転売ヤーが複数のアカウントを利用したり、自動購入ツールを使用したりすることで、一般の消費者が購入する前に買い占められるリスクを高める。また、実店舗においても、入荷数が限られている場合、開店前から並ぶ転売ヤーによって商品がすぐに売り切れてしまう。このような状況は、正規の購入機会を奪い、消費者を高額な転売品へと誘導する。

6.4 転売の収益性

何よりも、ガンプラの転売によって得られる高い収益性が、転売ヤーを惹きつけている。特に限定品や人気モデルは、発売直後から定価の数倍で取引されることもあり、短期間で大きな利益を得ることが可能となる。この収益性の高さが、個人だけでなく、組織的な買い占めや転売を誘発し、結果として一般消費者が適正な価格で商品を入手することを困難にしている。

7. バンダイナムコホールディングスの株主構成

7.1 全体的な株主構成

2024年9月30日現在のバンダイナムコホールディングスの株主構成を見ると、日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)が19.86%、株式会社日本カストディ銀行(信託口)が9.49%と、信託銀行が上位を占めている 1その他、JP MORGAN CHASE BANK 380815が5.02%、有限会社ジルが2.75%、中村恭子が2.42%、野村信託銀行株式会社(退職給付信託三菱UFJ銀行口)が2.10%、株式会社マルが2.02%、STATE STREET BANK WEST CLIENT – TREATY 505234が1.85%、任天堂株式会社が1.76%、STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001が1.56%となっている 1

7.2 海外投資家の割合

同資料によると、「外国法人等」が251,020千株を保有している 1。発行済株式総数は、各所有者区分の持株数を合計すると約660,000千株となるため、海外投資家の保有割合は約38%となる。これは、バンダイナムコホールディングスの株式の相当部分が海外の投資家によって保有されていることを示している。海外売上高比率が約50%に達している現状や、中期経営計画で海外売上高比率をさらに引き上げる目標を掲げていることからも、海外投資家の存在は同社の経営戦略に一定の影響を与えていると考えられる。

8. ガンプラ転売ヤー同士の競争

8.1 限定在庫の争奪

ガンプラの転売市場においては、転売ヤー同士の競争も激化している。特に、生産数が少ない限定版や人気モデルの発売時には、店舗前での早朝からの行列、オンラインストアでのアクセス集中、複数のアカウントを用いた購入など、熾烈な争奪戦が繰り広げられる。限られた在庫を巡って、転売ヤーたちは様々な手段を駆使して競い合っている。

8.2 価格競争と価格操作

転売市場における価格は、需要と供給のバランスによって常に変動するが、転売ヤー同士の競争も価格に影響を与える。多くの転売ヤーが同じ商品を確保した場合、在庫過多となり、価格競争が起こりやすくなる。一方で、意図的に品薄感を演出し、価格を吊り上げようとする動きも見られる。

8.3 情報戦

転売ヤーの間では、商品の入荷情報や価格動向に関する情報が非常に重要となる。そのため、正確な情報をいち早く入手するための情報網が形成されたり、逆に競合を出し抜くために意図的に誤った情報が流されたりする。情報戦も、転売ヤー同士の競争の側面の一つと言える。

8.4 対立と負の感情

転売行為は、一般のガンプラファンから強い反感を買っており、転売ヤー自身も、限られた利益を奪い合う中で、互いに不信感や敵意を抱くことがある。SNSなどでは、転売ヤーに対する批判的な投稿が頻繁に見られ、中には過激な言葉が飛び交うこともある。

9. 各要素の相互関連性

9.1 転売ヤーの競争が価格と入手性に与える影響

転売ヤー間の激しい競争は、二次市場におけるガンプラの価格と入手性に複雑な影響を与える。限定在庫の争奪は、発売直後の価格高騰を招く大きな要因となる。しかし、多くの転売ヤーが同じ商品を確保した場合、今度は在庫過多による価格競争が起こり、価格が下落する可能性もある。特にバンダイナムコが人気モデルの再販を行う場合、二次市場の価格は大きく変動し、過剰に在庫を抱えた転売ヤーは損失を被るリスクがある。このように、転売ヤー同士の競争は、ガンプラの二次市場を不安定なものにしている。

9.2 海外需要が国内供給と転売に与える影響

海外市場におけるガンプラ需要の拡大と、バンダイナムコの海外市場重視の戦略は、国内市場への供給量に影響を与え、転売を助長する可能性がある。輸出が優先されることで、国内市場への供給量が相対的に減少し、品薄感が増す。この品薄感は、国内の需要をさらに刺激し、転売ヤーが利益を得やすい環境を作り出す。特に、海外で人気が高いモデルは、国内での入手がより困難になり、高額な転売価格で取引される傾向が強まる。

9.3 海外投資家の影響の可能性

バンダイナムコホールディングスの株式の約38%を海外投資家が保有していることは、同社のグローバル戦略に影響を与える可能性がある 1。海外投資家は、会社の成長と収益性の向上を重視するため、海外市場での売上拡大を重視する経営戦略を支持する可能性が高い。このことが、ガンプラの海外展開をさらに推進する力となり、結果として国内市場への供給量や転売の状況に間接的な影響を与えることも考えられる。

9.4 バンダイナムコの転売対策

バンダイナムコは、ガンプラの転売問題に対して様々な対策を講じている。購入制限の設定、不当な高価格販売を行う業者との取引制限、人気モデルの再販などがその例である。これらの対策は、転売市場の過熱を抑制し、より多くの消費者が適正な価格でガンプラを入手できるようにすることを目的としている。しかし、転売ヤーも対策を講じるなど、いたちごっこの状況も見られる。

10. 結論

本レポートの分析により、ガンプラ市場は世界的な需要拡大期を迎えており、特に海外市場の成長が著しいことが明らかになった。この海外需要への対応を優先する戦略が、国内市場における供給量の相対的な減少を招き、結果として転売の増長を許す要因となっている可能性が高い。転売市場は、転売ヤー同士の激しい競争によって価格が変動しやすく、情報戦といった側面も見られる。バンダイナムコホールディングスの株主構成においては、海外投資家が無視できない割合を占めており、同社のグローバル戦略を後押しする要因の一つと考えられる。

バンダイナムコは転売対策を講じているものの、需要と供給の根本的な不均衡を解消するには至っていない。今後、同社がグローバルな需要と国内のニーズをどのようにバランスさせ、転売問題にどのように対応していくかが、ガンプラ市場の健全な発展にとって重要な鍵となるだろう。

引用文献

  1. 株主の状況 | 株式・債券情報 | IR・投資家情報 | 株式会社バンダイ …, 3月 22, 2025にアクセス、 https://www.bandainamco.co.jp/ir/stock/shareholder.html

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